いくつかの団子を乗せた皿と、大きさの違う湯呑みをふたつ。 それさえも邪魔に思える、もどかしい距離。 「殿」 「何で御座いますか、幸村さま」 大好きな団子に、平穏な天気に、呼べば答えてくれる相手。 十分幸せなこの状況を尻目に、溜息を飲み込んだ。 自分の奥底から沸き立つように出てきそうな何かを押さえる。 殿を見ると、殿に触れると、尚更。 「何やら顔色が優れませんね」 「・・いや、大丈夫で御座る」 苦笑を返すと、殿は少し困ったような表情を見せた。 余計な心配をかけてしまったことに胸を痛め、安心させるように彼女の頭に手を乗せる。 「少し、眠くなってしまったようだ」 本当は眼が冴えている程ではあるのだが、殿に心配をかけたくはない。 決して得意ではない嘘を吐くのには勇気がいったが、彼女は疑った様子もなく、一瞬考えるように頭を捻った。 その後、ぱっと顔を輝かせて此方を見る。 「では、どうぞお休みくださいませ」 「う、うむ?」 瞬間、視界が揺れたと思ったら、右頬に柔らかい感触。 甘い香りが鼻腔を掠め、いつの間にか退かされた皿と湯呑みの分の距離が縮められていることに気付いた。 「!?殿ッ」 「如何なさいました?」 「ここここれはッ!?」 「膝枕に御座います」 冷静に返す殿の声が左上から聞こえ、自分の頬に触れる柔らかい感触が彼女の太腿なのだと理解し得る前に、思考は停止してしまった。 当然口数も少なくなる。 「・・幸村さま?」 「む・・」 「お嫌でしたか」 左耳に入る彼女の声は悲しげな響きを持っていて、恥ずかしくて上げられずにいた顔をついと上げる。 殿は、僅かに瞳を潤して微笑んでいた。 こんなに悲しい顔をさせたい訳ではないのに。 思わず腕を伸ばし、殿の頬に手をかけた。 「殿・・此方へ」 「え、?」 「もっと、近くに」 段々と近づく彼女の頬を押さえ込んで、ぐいと引き寄せて。 睫毛が触れそうな程間近で、見開かれた彼女の瞳を覗き込んで小さく笑った。 |
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