冷たい風が肌を刺し、つんと鼻の奥まで染みいる。同時に鼻腔を掠めるのは、濃い鉄の臭い。


「幸村、さま・・?」


酷く衝撃的な目の前の光景、私はその中で呆然と立ち尽くしていた。 目前の主は此方に背を向けたまま、敵兵と刃を交えている。


「申したであろう、?無傷でなければ許さぬ、と」

「ッ幸村さま!」


紅の水滴が幸村さまの足元に滴り、地をその色で染める。生まれて初めて感じる指先の震えを押さえ、大きな背中に駆け寄った。 と同時にドッと血を吹き、幸村さまの足元に敵兵が崩れ落ちた。目前の幸村さまの背に触れる。怪我は無いようで、安心して脱力する私の顔を覗き込んで幸村さまは首を傾げた。


「如何した」

「何故、このような・・!」

「それは此方の台詞で御座る。何故某が逃げねばならん」


この主の聞き分けのなさには呆れを通り越して関心するものがある。溜息を吐いて、幸村さまを見上げた。


「逃げるのではありませぬ。このくらい、私一人で十分ということ」


不満げな幸村さまを見上げ、きっぱりと言い切った。しかし幸村さまは未だ眉根を寄せたまま此方を見遣っている。幸村さま、咎めるように呼ぶと一転して瞳に悲しげな色が覗いた。


「・・・嫌で御座る」

「為りませぬ」

「某は、を守りたい」


目を見開かずにはいられなかった。幼少の頃から近くにいた主が言い出すことにはいつも驚かされているが、こんなことは初めてだ。


「立派に為られましたね」

「・・ッ!?」


そっと顔を近づけ、怯んだ幸村さまに口付ける。 瞳を伏せていく主の耳元で、小さく言葉を零した。



謝罪よりも感謝を
(例え最期になろうとも、幸せな一生で御座いました)

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