一方通行
悲しい願いは、闇に消えて。
いくら頭で制止しようとしても、好きな人の前では、体は本能のままに動いてしまうものらしい。
思わず包み込んだ手の中で、彼女は小さく震えた。
それでも抗うことはしない小さな手を、俺は確かめるように強く握った。
今手の中に感じている彼女が、本物なのだと実感する為に。
それに戸惑うさんは、おずおずと此方を見上げた。
「退・・・」
「あの人のことは、忘れた方が良い」
小さく、けれどしっかりと紡いだ言葉に、彼女の手から伝わる震えが止まった。
俺が彼女を好きだなんて思ってもみなかったのだろう。
たくさん相談を聞いて、誰よりもさんがあの人のことを好きだって知ってるはずの、俺が。
俯いた顔に右手をかけると、さんはビクリと震えて俺を見上げた。
やっと、俺を見てくれたね。
けれどその目には驚きと恐怖が入り混じってる。
彼女の頬に添えていた手を滑らせて、彼女の小さな肩に巻きつけた。
「俺なら、さんを泣かせたりしない」
「でも・・」
「ずっとずっと、傍にいるから。貴女だけを永遠に愛してるから。だから・・」
そこまで言ってから、彼女をぐっと抱き寄せた。
彼女は固まったまま、俺の腕の中で縮こまっている。
小さく聞こえた声と一緒に、彼女を押し付けた胸にじんわり染み渡る水滴。
ごめんね。
俺も結局は、さんを泣かせてしまうんだ。
「お願い。俺を愛してよ・・」
あとがき
山崎夢。山崎の一方通行、片思い。
果てしなく可哀想な山崎です。でもなんかそんなイメージなんだよ、山崎。
両思いも書いてみます。このままじゃあまりにも可哀想だ!