Bitter Sweet
甘いひと時、せめてこの日だけは。
2月14日、バレンタインデー。
好きな人に「好き」と言う日。
恋人同士で愛を確かめ合う日。
恋する乙女の聖なる日。
の、はずなんだけど。
「んなこと言わずにさァ、な?ちゃァん」
「イ・ヤ・だ!」
きっと今のの顔は、般若か、真選組の副長さんか、というくらい恐怖を呼ぶに違いない。
女としては不名誉なその顔を隠しもせず、猫なで声を出して張り付いてくる銀時を張り倒した。
それでも銀時はしつこいくらいに腕を広げてを捕まえようと試みる。
さっきからずっとこの繰り返しだ。
「いい加減に諦めてよッ」
「お前こそいい加減俺の言うこと聞きなさいって。悪いようにはしねーから」
「嘘!その手がやらしいんだってば!」
わきわきと手を動かして不審者のようにこっちに寄ってくる銀時の脇をすり抜けて喚くが、逃げ込んだ部屋が銀時の部屋だった為に追い詰められる。
「ヤだ、もうしつこいー!」
「しつこさと愛情の深さは紙一重だ、覚えとけ」
「ストーカーかアンタは!」
「あんなゴリラと一緒にすんな」
腰に回ってくる手に拒否を示して身体を捩るが、やはり効果は無い。
こういう時に思い知らされる体格差、力差に妙に意識してしまう。男を感じてしまう。
横抱きにされたままあっさりと居間のソファに引き戻され、当然のように銀時の膝の上に座らされた。
「最悪・・」
「銀さんの膝に座れるってのにそれは無ェだろ、ちゃんよォ」
ニヤニヤとこっちを見遣る銀時に溜息を吐く。
観念したように目の前の机に置いたパフェに手を伸ばし、スプーンを手に取ると、銀時は嬉しそうに口を開いた。
溶け掛かったチョコレートクリームを一掬いして、銀時の口に入れる。
「うん、うまい」
「そう」
「も食う?ホラ」
心底幸せそうに尋ねてくる顔は拒否など許してはくれないのだろう、の手ごとスプーンを掴んでパフェを掬った。
そのままの口元に運ばれる、かと思いきやそれは銀時の口の中に。
なんだ、やっぱりくれないのか。いや別に欲しい訳じゃないんだけどさ、くれるって言ったらちょっと期待するじゃん。
何だか複雑な心境のまま銀時がパフェを食べる様子を眺めていると、ふいにその視線が此方を向いた。
「ん」
「・・・?え、あ」
突然に頬に触れた手が、キスをするようにの下唇を開かせた。
そのまま、銀時の顔が近づく。
温い何かが口内に入り込んだと思ったら、今度は冷たい何かが舌に触れる。
銀時にキスされるのはいつものことで、舌を入れ込まれるのもいつものことで、なのに生クリームが二人の間を行き来しているのかと思うと酷く扇情的な心地がした。
どうにか口内のクリームを全て飲み込んで、ほっとひと息吐こうとすると、その間でさえ許さない銀時の唇がまた降ってきた。
「ちょっ・・もうやめ!」
「却下。これからが本番だろ」
「!?パフェ作って、食べさせるだけって言ったじゃない!」
「あ〜だからァ・・・抵抗したお仕置き?」
「なんで疑問系!」
怪しく蠢く手を引きとめて抵抗を強めるも、銀時の言葉が脳内を刺激して結局白旗を揚げてしまった。
仕方ないと諦めて溶け掛けたチョコレートパフェに目を遣り、もう一つ作ることになるであろうパフェの材料が足りるかどうかに思考をめぐらせることにした。
「が一番甘ェ。もうサイコー」
あとがき
バレンタイン銀さん夢。
ありがちではありますが、ラブラブさせてみました。
銀さんはヒロインさんを苛めたいが為に迫って迫って、結局自分の理性に負けちゃうといい。