はぁ。制服の群衆に混じってこっちに向かって手を降る私服の女を見て、自然と溜め息が漏れた。 「飽きねぇな、暇人女」 「だってば!」 「知るか」 ふい、とその女の横を通り過ぎる。いつもより重い荷物持ってイライラしているのに、またこの女かよ。心の中で舌打ちをしてずんずんと帰路を進む。女は小走りで着いてくる。これはここ最近ほぼ毎日のことだった。 「すっごいね、これ全部チョコ?」 「……」 「景吾モテるよねー流石氷帝の帝王!」 「うるせぇ」 「あっ、照れた?照れたでしょ今」 「何しに来たんだお前は」 え、と小さく吐かれた言葉と共に強張る表情。それを伺うように覗き込んでやると、視線を外しやがった。 「えと、あの・・これ」 「アーン?」 普段のでかくてウザいと感じる声とは掛け離れた、蚊の鳴くような声で呟いた女は、手に持っていた小さな紙袋を目の高さまで持ち上げた。勿論、視線は空中に漂わせたままで。 「チョコ」 「あぁ?」 顔を真っ赤にして言うもんだから、いつもとの違いに正直驚いたが、不意に嗜虐心が芽生えた。 「チョコが何だよ」 「だ、だから、えーと・・・」 こんな道の真ん中で告白でもするのか、顔を茹蛸のようにする女に、俺の口端も自然と上がる。ここ最近いつも振り回されているこの女に少しくらい意地悪しても罰は当たらないだろう? 「用がないなら帰るぜ」 「待っ・・あ、あの受け取って、くださいっ!」 それだけ言うと、俺の胸に押し付けるようにして紙袋を手渡してきた。そのまま逃げるように足早に去っていく後ろ姿を呆気にとられて見る。意外に女らしいとこもあるんじゃねぇか。紙袋の中の小さなカードを取り出しながら、小さく笑みを零した。 『景吾へ ホワイトデーは3倍返しだからね! より』 「・・やっぱり可愛くねぇ・・・」 カードを片手に呟いた俺の声は、本人に届くこともなく白く濁って消えた。 |
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