体温上昇注意報

夏が暑いのは、気候のせいだけじゃない。


「あー暑い暑い暑い暑いあーっつーいよー」

「うっせェ、余計に暑くなるわァァ!」


土方さんは口と手が一緒に出るタイプみたいだ。
水いっぱいの子供用プールに膝まで浸かって(子供の頃使ってたのを家から持ってきた)、上半身は床に寝転がっただらしない格好ののおでこを、土方さんは小気味良い音を立てて叩いた。
痛い、としか言えないくらい暑さによって働かなくなった頭を摩る。
ちくしょー、いつもなら何倍も文句言ってやれるのに。


「黙って耐えてろ、うだうだ言ったって暑いモンは暑いんだぞ」

「だって、耐えられないんだもん。土方さんは平気なんですか?」

「平気に見えるか?あァ?」

「見えない」


今日はお互い非番だからと暑苦しい隊服を脱ぎ捨てて浴衣一枚になってはいるものの、だらだらと汗を流す様子はどう見ても平気には見えない。
とは言いつつも、確かに土方さんの言うことも一理ある。
暑いと言おうが言うまいが、暑いものは暑い。


「土方さーん」

「ンだよ」

「何か、気が紛れることでもしません?」

「例えば?」

「そーですねー、例えばー・・」


言い終わらないうちに、は浸かっている足を土方さんに向かって勢いよく上げた。
バシャッ、と涼しげな音を立てて、プールの水が土方さんに襲い掛かる。


「うわ!、てめッ!」

「あはは!気持ちいーでしょっ」


の蹴った水は土方さんの浴衣を軽く湿らせた。
薄い蒼の浴衣はみるみる紺に染まっていく。
それが妙に可笑しくて、は調子に乗ってプールに浸かったままの足をバタバタと動かし始めた。
所謂、バタ足だ。
これには流石の土方さんも、腕で顔を覆って怒鳴った。


「やめろっつーの!ガキかてめェは!」

「ガキで結構!気持ちいいじゃないですかー!」


足が疲れるまでバタ足してプールの中の水がほとんどなくなったのを確認すると、笑顔で土方さんに視線を戻した。
髪が顔に引っ付いてイライラしてるっぽい土方さんは、こっちをジロリと見ていた。
瞳孔、いつもより開いてるんじゃない?


「プッ、土方さんびしょびしょ」

「てめェ・・誰のせいだと思ってんだ?」


すっかり紺地になった浴衣を絞りながら、土方さんは青筋を立てている。
そろそろ逃げ時かな、なんて思っていると、背後から聞きなれた声が聞こえた。


、何してんでィ?」

「あ、沖田くん」


後ろを振り返ろうとしたは、熱い何かにがっちり掴まれて沖田くんの顔を見ることは叶わなかった。
一瞬の沈黙の後、その何かが土方さんの身体だと気付いた瞬間、の身体は今までの水遊びで得た涼しさなんて吹き飛んでしまうくらい熱くなる。


「え、あの、ひ・・土、方さん?」

「悪ィな、総悟。、行くぞ」

「え!?あのっ、わ、えぇえ!?」


土方さんに横抱きにされた、そう認識した時には土方さんの顔が間近に迫っていた。
まだ、数歩しか歩いていないのに、このままでは沖田くんに見られてしまうではないか!
そんなの葛藤なんてお構いなしの土方さんの顔は、どんどん近づいてくる。
キスされる、そう思ってぎゅっと目を閉じた。
土方さんの吐息が耳にかかって、そして・・。


「腕で出来るだけ前隠せ」

「・・・は・・?」

「胸元。透けてんぞ」

「!?」


思いも寄らない台詞に、咄嗟に自分を抱きしめた。
そうか、土方さんと同じようにもびしょびしょなんだった。 涼しくて気分爽快で忘れてた。
見下ろせばぴったりと肌に張り付いて肌色をしたの浴衣。
よりにもよって白い浴衣を着ていた自分を責める。
と同時にこみ上げてくる、羞恥心。


「誰かに見られねェようにしろよ?」

「誰かにって、土方さんもでしょっ!?見えてたならもっと早く言ってください!」

「俺ァいいんだよ」

「何がですか!副長のエッチー!」


ぎゃあぎゃあ喚いたけど、土方さんの部屋に入るまでは姫抱っこのまま下ろしてもらえなかった。
ここに来るまで何人もの隊士に見られたかわかったもんじゃない。
沖田くんに至ってはあることないことスピーカーで触れ回ってたし・・。


「どうしよう・・恥ずかしくて死にそう・・」

「大丈夫だ。これからもっと恥ずかしいことになるから」

「え、ちょっ・・!?」


切なげに眉を寄せた土方さんの顔が突然の首筋に沈んだ。
甘い痛みに襲われた瞬間、の思考は止まってしまう。
夏の暑さとは違う何かに熱を上げた土方さんの温度がじんわりと胸に染み込んできて、観念して目を閉じた。

あとがき

土方さん夢。一応恋人設定。
やっぱり夏といえば水遊び→女子の透けた服に悶々とする男共ということで(笑)。
そして女子はポーカーフェイスな土方さんの独占欲に悶えるのです(オイ)。
もう破廉恥極まりない発想ですね!(笑顔)