我侭スモーカー

愛しい香り、どうか消えないで。


いつ来ても煙臭い部屋。 恋人の部屋に来ても、ロマンチックなことひとつ考えずには襖を閉めた。
そして問う。彼への牽制の意味を込めて。


「禁煙と禁欲、どっちがいい?」

「・・・・あァ?」


伸びて来た腕をかわしながら放った言葉に、トシは明らかに眉を寄せた。
トシに部屋に呼ばれる時は、決まって抱きしめられる。 そしてうつる、煙草の香り。
煙草を吸わないにとって煙の匂いなんて嫌なものでしかない。
だから、抗うことに決めたのだ。


「だってトシ煙草臭いんだもん」

「だから触るなってのか?」

「そういうこと」


きっぱり言い放ち、立ったままトシを見下ろす。いつものように隣に座ることは、しない。してはいけない。
思惑通り、トシは伸ばした手を引っ込めてただを見上げていた。
ややあって、トシは漸く口を開く。


「・・禁煙は、しねェ」

「・・・そう・・・。禁欲を選ぶのね・・」


自分から言っておいて何だけれど、軽くショックを受けた。
トシにとってのは、所詮その程度だったのか、と。
他の女で代わりがきくような、その程度の存在だったのか。
未だ現実味の沸かないその答えに、はぽつりと呟く。


「だったら、だって・・」

「あ?」


急に考え込んだと思ったが突然発した言葉に驚いたのだろう、トシは訝しげにこっちを見遣る。
そんなトシの様子なんて気に留めないは、半ばヤケで禁断の単語を口にした。


だって、銀ちゃんのとこ行ってやるんだからっ!」

「・・・何?」


その形相といったら、流石鬼の副長。
銀ちゃんのことを毛嫌いしているのは知っていたから、は当然口を噤む。
怖い、けど悔しいから黙ってなんてやらない。トシが悪いんだ。


「何なのよ・・自分ばっかり・・」

「あァ?」

「何もない!銀ちゃんのとこ行くから、トシはどーぞ他の女とイチャついててくださいっ!」


は思いっきりトシの言葉を遮り、部屋から出ようと襖に手をかける。
そしてトシに背を向けたのが、の運の尽きだった。


「待て」

「ッ!」


襖にかけた手をとられて、後ろに引かれる。 当然不安定になるの身体を、トシが容易く受け止めた。
後ろから抱きしめられている。動揺したは身体を固くして後ろに問うた。


「・・・な、なに・・よ?!」

「行かせねェ」

「ぅあッ!?」


知らぬ間にずり下げられた襟の隙間から妙な痛みを感じて声を上げてしまった。
見えないけれど、いつもされているから、何をされたか嫌というほどわかってしまう。
後ろから聞こえる、トシの声が低い。


「どこ行くって?」

「・・だ、から・・ぎ、んッ!」

「学習しろよ?」


可笑しそうに笑うトシの声が耳元に響く。
肩に三つ目の痛みが走った後、は足元をふらつかせたまま後ろに身を委ねた。
いくつ痕をつければ気が済むんだ、この男は。
何か言ってやろうと後ろを振り向いたら、予想以上に近いトシの顔に真っ直ぐ見つめられた。


「俺が煙草をやめねェ理由、教えてやろうか?」

「理由・・?」


眉を寄せたに、トシは妖しく笑って顔を寄せる。
の顔の隣、耳に辿り着いたらしいトシの唇が聴覚を刺激するように耳にキスを施した。


「!ぅ・・」

「お前を煙草臭くして、アイツにお前は俺のモンだってわからせる為」


響くトシの声が何だか楽しそうで、は唇をかみ締めた。
苦い苦い彼の香りと、甘い甘い彼の言葉がの脳を侵食していく。


「ッ、何言ってんの・・」

「お前は鈍感すぎんだよ、。もっと気をつけろ」

「馬鹿・・」


頬の熱が上がってくらくらする。
そんなの顔を見てトシは、やっと綻んだ唇を近づけた。

あとがき

ごめんなさい、これ願望です。
頼は最近気付きました。嫉妬モエー。
嫉妬して我侭勝手に事を進めていかれるようなお方が好きです(変態見っけ☆)
自分サドな方だと思ってたんだけど、マゾなのかも知れない・・と思いつつお話を書く手が進む頼でした。