飛んで火に入る夏の虫
火傷したって構わない。その熱がずっと欲しかった。
「お疲れ様です。今日中に終わりそうですか?」
夜食を部屋の隅に置いて、男らしい背中にそっと声をかけた。
姿勢の良い後ろ姿は、彼を容易に連想させる。まっすぐで、芯の強い彼の性格を。
「あァ・・あと少しだ」
背を向けたまま、しかしはっきりとそう言った土方さんに、はほっと息を漏らした。
土方さんはいつも夜中まで書類を片付けていて眠るのが遅いから、心配で仕方がない。
けれど、土方さんと二人きりになれるこの空間には感謝していた。
この時間だけは、彼を独り占めできるから。
「日付変わっちまったな」
せわしなくペンを走らせながらも、土方さんはに話掛けてくれる。
「そうですね」
はそれに答えながら、幸せを噛み締めた。
今日という日を、土方さんと共に迎えることが出来たということが嬉しい。
思わず笑みが零れる。
と、ふいに土方さんがこちらを向いていることに気付いて、慌てて口を押さえた。
小さな明かりを燈しただけの土方さんの部屋は、彼の周りを除いて真っ暗な闇を湛えていて、きっと土方さんからはの表情など見えはしていないだろうけれど。
こちらを向いたまま微動だにしない土方さんを訝しみながら、は首を傾げた。
「土方さん?」
「やる」
「え?」
目の前に出されたのは、綺麗に包装が施された長方形の箱。
明かりを背にした土方さんの表情は、見えない。
「なんで、」
「お前今日誕生日だろ」
「知ってたんですか?」
「まぁな。早く受け取れ」
フン、と鼻をならしての手を取り無理矢理手渡す土方さん。
触れた手が、熱い。
「あ、りがとうございます・・・開けてもいいですか?」
「あァ」
未だ見えない土方さんの表情を伺いながら手の中の包みを丁寧に開けると、中には銀に輝くネックレスがあった。
「貸せ」
横から伸びてきた手に奪われ、いつの間にか急激に距離を詰められていることに気付く。
目の前にまわった土方さんに、さも当然のようにネックレスをされ、呆気に取られながらもお礼を言う。
「ッあ、ありがとうございます」
首の後ろに添えられたままの土方さんの手が、首に当たって熱を持つ。
土方さん、と呼んでも、返事は返ってこなかった。
代わりに落ちたのは、甘い甘い接吻。
「ッ!」
驚いて頭を引こうとすれば後頭部を押さえつけられる。
暫くの沈黙の後、漸く唇は離れた。
「来年は指輪だからな、予約しとくぞ」
土方さんは低く笑って、の薬指にねっとりと舌を這わせる。
瞬く間に光るの指を見て、逃れようとする腰を捕えたまま、土方さんは耳元で囁いた。
「逃げんなよ?」
ニヤ、嫌な笑顔がを見下ろしていた。
何処かで、鈴虫の鳴き声が響いてる。
あとがき
誕生日土方夢。歳明くんに捧げます。
こんな拙い文章をメールでしかも深夜に寄越しやがった私をお許しください。
本当は続編書きたいのだけれど、先延ばしになってます。
だってやっぱりさ、土方さんの誕生日が良かったんだけど!過ぎちゃってるし!
計画性のなさが見え隠れ(隠れてない)する作品で御座います。すいません!