All of you

全てが愛しくてたまらないから。


例えば見る者を射抜くような鋭い瞳だとか、真っ直ぐでさらさらな黒髪だとか。
ただその容姿が好きだというなら、この気持ちも幾分かマシだったか知れないのに。


「あの女(ひと)も、知り合い?」

「あァ?」


眉間に皺を寄せて、トシは煙を吐き出した。
視線は、まだ遠くに注いだまま。
その視線の先にある小さな背中にさえ嫌悪を覚えるは、すごく嫌な女だろう。


「まだ、好きなの?」


トシの顔も見れずに、は小さく呟いた。
声が明らかに震えてしまって、少し焦る。
くだらねェ、とトシの声が降ってきて、少しだけホッとした。
馬鹿にしたようなその声色が、気のせいじゃないと良いのに。
そう願っても、トシの方を見れないには真偽を確かめることは出来ない。
弱い自分が情けなくて、唇をきゅっとかみ締めた。


「ヤキモチか?」

「ッ!」


トシの突然の言葉に、思わず顔を上げてしまった。
瞬間、の唇はかみ締めた後が解れるくらい濡らされる。
勿論、濡らしたのはトシのそれで。
驚いてトシの肩を押したら、尚更深く口付けられた。


「ト・・」

「・・くだらねェことで妬いてんじゃねーよ」


路上でこういうこと、しない人なのに。
ぽかんとするわたしを尻目に、トシは少し乱暴にの頭を小突いた。
帰るぞ、って手を引かれて、あの女(ひと)の背中に背を向けるトシ。
思わず後ろを振り返ったら、小さな背中はもう見えなくなっていた。

あとがき

ヒロインさん嫉妬しちゃいました。
背中だけの出演は、総悟姉です(笑)。名前何だっけ?
勿論ヒロインさん一筋土方さんは、ヒロインさんに余計な心配させまいとこういう言葉をかけたということで。
嫉妬するのってエネルギーいりますからね。