S☆トラジコメディー
側にいられることが喜ばしいことだから。
昔々、とは言えないある日のこと。
それはそれは綺麗な王子様が、言いました。
「、サボりにいこーぜィ」
と呼ばれた少女は頭上からの声に考え込むように、うーん、と唸りました。
ぽん、と頭の上に柔らかいものが乗って、上を向くことさえ許されなくなったには、王子様の顔は見えません。
「副長に斬られるから遠慮しとく」
まだ殺されたくない、とばかりに首を振ると、王子様は綺麗な顔を見える位置まで下げました。
色素の薄い髪に大きな瞳、整った顔立ちの、誰もが振り返る容姿を持つ王子様。
少女もすっかり見惚れてしまいます。
しかし王子様にはひとつ、大きな欠点がありました。
「大丈夫だぜィ、土方コノヤローならあっちで気絶させといた」
そう、王子様はドがつくサディストだったのです。
「・・・駄目じゃん、復活したら怒られるじゃん」
「そん時はそん時、バズーカぶっ放したり爆弾爆破したり・・」
「・・副長って、よく生きてるよね」
王子様が言ってのける様々な対処法に呆れたのか、少女は一言小さく呟きました。
と同時に廊下の端から何かドタドタと足音が聞こえます。
王子様は座り込んでいた少女を抱き上げ、王子様らしからぬ悪人顔でにやりと笑いました。
「逃げるぜィ」
「ええ!?も!?」
「当然でィ」
言うが早いか、王子様は少女を抱き上げたまま走り出します。
背中に受ける罵声が更に大きくなりましたが、王子様は無視しました。
ついと下に視線を遣り、林檎のように真っ赤に染めた少女の顔を眺めて王子様は笑いました。
あとがき
トラジコメディー=悲喜劇。
ちょっと違うかも知れませんが、無理矢理連れていかれるヒロインさんには悲劇、のはずが?
満更でもないヒロインに、確信犯の王子様でした。