おかえりなさい。 疲れたとわたしの肩に顔を埋める彼を笑って抱き留めた。 冷たい身体を暖めるように、きつく抱きしめる。 彼の背中に回したわたしの手が掴んでいるそれに気付いて、目を向けた。 そして、わたしは声にならない悲鳴を上げた。 固く冷たいそれはわたしの手から離れずに、彼の背中を貫いている。 銀の髪が、白い肌が、染まる。 赤い、水滴。赤い、朱い、紅い、アカイ・・




「やッ、あああああ!」

!?!」


彼とは違う声に咎められ、落ち着けと怒鳴られた。 少し冷えた頭で薄らと意識を戻していく。 自分の頭上にいる人物の顔を確認すると、やっと現状を理解した。


「ヴァン・・・」

「大丈夫か?」


小さく頷くと、身体に感じていた重みがゆっくりと引いていった。 身体が動かないと思ったら、ヴァンに両腕を押さえつけられていたようだ。 ベッドから降りようとすると制止され、床に視線を落とす。 わたしは相当暴れていたらしく、ベッドサイドに置かれた花瓶が無残にも床で粉々になっていた。


「ヴァン、わたし・・・」

「俺がやるから、はここにいろよ」


手伝おうと乗り出すわたしを座らせ、ヴァンは花瓶の破片を片付けた。 済まなそうに名を呼べば、彼はベッドサイドまで近づいてきてくれる。 謝罪の言葉を口にしながらヴァンに縋るように腕を巻きつけたわたしに、ヴァンは何も言わなかった。 頭の隅を過ぎる男の面影を探す自分に嫌悪感を感じながら、それでもわたしはその温もりを離すことなど出来なかった。


「・・・レ・・クス・・」





偽りの熱
(違う、彼じゃない、それはわかってるのに)

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