遠い記憶

ずっと欲しかったもの。代わりなんて、そんな大層なもんじゃないけれど。


まるでダメなおっさん、略してマダオ(ぴったりだよね、この呼び名)は今日もその名に恥じぬダメっぷりを発揮している。
むしろ、板についてきたと思うのはだけじゃないはずだ。


「マダオさん今日も暇なの?」

ちゃん、一応おじさんにも名前あるんだけど」


公園のベンチに座ってぼんやりと煙草をふかしていたマダオは、やっぱりダメなツッコミを返した。
新八くんみたいにテンション上げてツッコめないのかしら。これじゃボケが死んじゃうわ。
そうは思うけれど、そんなことを思っているなんて億尾にも出さず話を進める。
が聞きたいのは可哀想なマダオの身の上話でもダメなツッコミでもないから。


「ね、マダオさんって前は役人だったんでしょ?」

「あの、人の話聞いてる?」

「うるせーな、てめェの本当の名前なんて誰も覚えちゃいねーよ、マダオが」

「(黒ッ!)すんませんっしたァ!」


怯えたように土下座を繰り出す長谷川さん(仕方ないからこう呼んであげることにした)を見遣って、は笑みを浮かべた。
すぐ土下座する辺り、流石マダオだ。


「うふふ、わかればいいのよ。ねェ、役人ってどんな仕事してるの?」

「・・・天人のご機嫌伺いばかりの汚ねェ仕事さ。辞めて清々してる」


一気に煙を吐き出して、マダオは小さく笑った。
清々しい笑顔に、誰かの陰がちらつく。 遠い昔に見た、優しい笑顔とサングラス。
の頭を撫でる、大きくてゴツゴツした手。 あぁ、やっぱり似てるなぁ。


「・・・そう。じゃあやっぱり、役人って皆悪い人なの?」

「いや、良い奴もいたよ。やっぱり家族がいると、悪いことってェのはし難いもんさ。
 ちゃんみたいに可愛い子供がいりゃあ、尚更だろーなァ」

「・・本当?」

「あァ」

「・・・そっか」


みるみる視界がぼやけるのがわかる。 、何で泣いてんだろ。
父さんに言われた訳でもないのに。 ただのマダオに言われただけなのに。
でも、なんだか懐かしく感じた。父さんなんて知らないはずなのに。


「ありがと、」

「どーいたしまして」


マダオは笑いを含んだ声色でわしゃわしゃとの頭を撫でた。
すっごく乱暴で、そういうことし慣れてないってことが伝わる。
せっかくセットした髪がボサボサになってすっごくムカついたけど、何も言わなかった。
女の扱いも慣れてないこのマダオに免じて、黙って撫でられてやった。

あとがき

サドで黒いヒロインさん。マダオには厳しい辺り神楽イメージ。
ヒロインの父親は子供の頃死んで、その父親が役人でグラサンかけてた設定(ねーよ)。
父親がいない女性って、彼氏に父親の面影を求める人が多いらしいです。