、好きさー」

「・・・ありがと」


そう言いつつも、絡まる腕をさりげなく取り払う。
それを不満げに見詰める目の前の男に、はご機嫌伺いの苦笑を返した。

これで、幾度目だろう。
彼の批判めいた声にも瞳にも、もう慣れてしまった。
胸は痛むけれど、にはこれしか方法がない。
には、彼を邪険に扱う勇気などないのだから。


「いっつもそれさ、

「ごめん」

「謝るなら、好きって言って」

「・・・・・」


ラビは、当然わかってる。 のキモチ。
だけど、口に出すことが出来ないは、弱虫で臆病者。


「言って、

「・・だめ、言えない」

「なんで?」


そう言って悲しみを帯びた瞳がこちらを覗き込んだ。
本当のことを言ったら、貴方はもう好きと言ってくれなくなるだろうか。
悲しい、寂しい。
けれどそれは、のワガママ。


「・・考えたく、ないの」

「え?」

「ラビが、ブックマンになったら・・」


その先を言うことは躊躇われて、思わず俯いた。
これは、自分が傷付きたくないだけの勝手な言い分だ。



ブックマンは、歴史の傍観者。
何にも属さず、何にも捕われない。

ラビがブックマンになったら、その時は――?



「勝手で、ごめんね」


漸く顔を上げて視線を戻したは、ラビが近付いていることに気付いた。
その差、約10cm。視界には、整ったラビの顔と、赤だけ。


「わかったさ」


素早く、ラビの腕がの腰に回る。
ふ、と笑った彼の瞳に吸い込まれるような間隔、そして。


「じゃ、」


暫く言葉も出なかった。 いや、出せなかった。
何故かなんて嫌というほどわかっているのに、は抵抗することすら忘れていた。


「・・ッ、は」


漸く解放された唇からは、の溜息だけが漏れた。


「俺はずっとを好きでいる。これが、俺のワガママ」


そう言ってを強く抱きしめるラビは、この上なくかっこよく見えた。
彼お得意の悪戯っぽい笑顔が、の心をかき乱す。


「ずるい・・」

「お互い様さ」


そう言って一層ぎゅう、と抱きしめられれば、もう抵抗は叶わない。
観念して、何も言わずにラビの胸に顔を埋めた。



抗う術は いのだから
(だから、永遠に口には出来ないけれど。本当はね、とても、)



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