寂しい、ずっとそう思ってた。
この思いは誰といようと変わらなかった。




「ここ・・・どこ?」

「はァ?お前田舎から来たのかよ」

「いや・・えーと?」


考え込むように口を噤んだ。ここがどこかもわからないのだから答え様が無い。
辺りを見回すとやはり現代にしては何処か違和感のある建物ばかりだ。
看板には漢字がいっぱい並んでて、何とか読めることから考えてもここは日本なのだろう。
日本語もしっかり通じてることだし。
だが日本にこんな場所があっただろうか?
時代劇のセットがある村(ナントカ映画村とか、あるよね)にしては、町行く人々はあまりにも自然だ。
第一は何故こんなところにいるんだろう。それとももしかしてこれが天国?


「オイ」

「は!?はい!」

「離せ」


突然思考を停止させられ、うんざりと此方を見遣った男と目が合うと、男はその視線を自分の着物の裾に移動させる。
それに導かれるようにそっちを見ると、しっかりと彼の着物の裾を掴んだの手があった。
気付かないうちに掴んでいたらしい。


「あ、すみません!」

「じゃーな」

「ああッ!?ちょッ!」


弾かれたように掴んだ裾を離した途端、男は背を向けた。
彼とが関係ないのは百も承知だけれど、もう少し聞きたいこともある。
はさっさと歩き出すその男の背を追って走り出そうとした、のだが。


「待ってくださッ・・うわ!」

「うお!?」

「あ?」


男の背しか見ていなかったの足は当然のように人込みの中で縺れ、近くの町の人を巻き込んで派手に転んだ。
ぐるりと視界が回った瞬間、その騒ぎに彼が振り向いたのが見えた。


「すッ・・すみません!」

「あーいててて」


咄嗟にの下敷きになった人に声をかける。
綺麗な銀色の髪を持ったその男は、痛そうには聞こえない口調で声を上げた。
大丈夫ですかと問うが、銀髪の男は此方の言葉など聞いていない風で、の頭上を見上げていた。


「あーらら、大串くん」

「てめー何でこんなとこにいやがる」

「町歩くのに警察の許可取らなきゃいけないんですかー?」

「てめーは歩く有害物質なんだよ。許可取れコラ」

「あ、あの・・・」


頭上で飛び散る火花に困り果て、小さく声を掛けてみた。
瞬く間に視線が此方に集中する。
やっと此方を見た銀髪の男は、今気付いたかように声をかけてきた。


「あぁ、そういえばアンタ誰?」

「え、えーと」

「何、もしかして大串くんのカノジョ?」


にやりと笑う銀髪の男に何も返さずにいると、また頭上から声が降った。


「知らねーよこんな女」


そんなにハッキリ言わなくても。ちょっと傷付いたは俯く。
一瞬の沈黙の後、銀髪の男のものらしき声がまた聞こえた。


「ふーん?じゃあ、銀さんと一緒に来る?」

「あァ?」

「え」


徐に顎を掴まれて顔を上げられると、へら、と笑った銀髪の男と目が合った。


「結構可愛いし」

「、え!?」

「待てコラてめー何かやらしいこと考えてんじゃねーだろうな」

「アレ?大串くんは関係ないんじゃなかったんですかァー?」

「住民の安全もオレらの仕事のうちなんだよ」

「大丈夫大丈夫、無理矢理はしないから」

「何をだコラァァ!」


顎を固定されている為に銀髪の男の顔しか見えないが、黒髪の男は怒っているらしく声を荒げた。
目の前の銀髪の男は、相変わらず目線を上に上げてにやけている。
と、突然右腕を引っ張り上げられて無理矢理立たされた。


「うわ!?」


咄嗟にバランスを取りつつ振り向いて、腕を引っ張った人物を認めたは目を見開く。


「え、あの」

「行くぞ」


此方を一瞥すると、黒髪の男は拗ねたように背を向けて歩き出した。
困ったように視線を巡らせると、いつの間にか立ち上がったらしく埃をはらっていた銀髪の男は、此方の視線に気付いてにやりと笑った。


この人、わざと?


相変わらず笑って早く行けと手で合図する銀髪の男にお辞儀をして踵を返すと、黒髪の男の背を追う。
やっと辿り着いた男の背に手を伸ばし、再び着物の裾をそっと掴んだ。



ひとりぼっちの世界で
(縋っても罰は当たらないだろうか)


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