逞しい腕も、狂気を帯びた瞳も、独特の訛りも、絶えず感じた温もりも。
全てが夢の中の出来事であったかのようで、怖かった。
夢じゃない、そう言い聞かせても、はそれを確かめる術を知らない。




さん」


背中越しに掛けられたのは、の愛すべき恋人の声。柔らかく包み込まれるような、優しく低い声。


「吉良くん」


名を呼べば笑いかけてくれる、この人が今のの恋人であり、心の安らげる相手だ。
優しい手に目を細めて身を委ねれば、吉良くんの手は頬に触れてきた。


「吉良くんは優しいね」

「そうですか?」

「うん。ギンは、こんなに優しくなかった」

「そう、ですか・・・」

笑って目前の吉良くんを見上げると、何とも切ない表情が目に入った。
どうしたの、そう問えば吉良くんははっとして苦笑を見せた。


「何でもないです」


何でもないなんて顔じゃない、それは見ればわかるけれどは何も言わずに、そう、とだけ返した。
少し沈黙が続き、それを破るようにそっと吉良くんの頬にキスをすると、突然のことにうろたえた吉良くんは赤い顔を隠そうともせずにを見た。


さんッ?」

「好き、吉良くん。ギンなんかより、ずっとずっと好きだから」


そう言って吉良くんの胸に顔を押し付けた。
吉良くんの熱がじんわりと伝わってくる。
言い様のない感情を抑えて、吉良くんの胸に更に顔を埋めて、そっと笑った。



夢じゃない
(ギンは確かにここにいたよね?)

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