「雲雀・・くん」


僕の名前が綺麗な音のひとつのように響いた。 振り返れば、りんごのように真っ赤な君の顔。


「なに?」

「あの、ここなの・・」


しどろもどろになりながら、上目遣いにこっちを見上げる。 困ってるのかも知れないけど、僕の目には可愛くしか映らないよ。


「そう」

「うん、あの、ありがとう・・」


照れくさそうにはにかむ彼女を見て、少し笑みが零れるのを抑えた。 なんだか、僕らしくないな。


「ねぇ、

「は、はい?」


僕から話しかけることは珍しい。 彼女は驚いたように首を傾げる。


「明日も仕事が溜まってるから、帰りは遅くなるよ」

「う・・わかった・・・」


彼女はその言葉に少し苦笑した。 本当は、仕事なんてないんだけど。 いじめたい訳じゃない。 これは、僕のわがままだよ。


「その代わり、ちゃんと送るから」

「!うん・・」


そう言うと、彼女はぱっと顔を明るくした。 困ったような、でも嬉しいような、その表情。 わかりやすいよね、君は。 初めて風紀委員として会った時もそうだった。 君は困ったような、でも嬉しいような顔で笑ったんだ。


「じゃあ」

「うん。また明日ね、雲雀くん」


さっきまで隣を歩いていた彼女の声を背に、僕は来た道を歩き出した。 何だか、風が冷たい。 ぼそりと呟いた言葉は、夕闇に溶けた。

だから群れるのは嫌いなんだ
(だって、君が隣にいるのが当たり前になってしまうから)

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