大人と子供の境界線

余裕がないのはどっちの方?


置いていかないで  側に置いていて
もう子供じゃないよ
だって、貴方が女にしたんだもの


「先生、帰りたいんですけど」

「あー先生最近難聴が酷くてなァ」


溜息混じりに伝えた言葉は、届きはしても伝わらないまま。
後ろから緩くしかし確かに抱きしめる先生の腕は、のお腹辺りでしっかりと組まれていた。
先生と二人で教室に居残りなんてよくある話すぎて、誰もたちの反道徳的行為には気付いていないらしい。
というかもう下校時刻は過ぎてしまって、教室はおろか学校内にも人はほとんど残っちゃいないんだけれど。


「離してよ。ドラマ始まっちゃう」


煩わしそうに、本当に嫌そうに声を上げる。
それでも先生にはきっと、これが演技だってわかってるんだろう。
猫なで声を出してはの肩口に顔を埋める、確信犯なこの男には。


「ひでーなァちゃん、先生と過ごしたくないのォ?」

「うん」

「うわ、いくら先生でも傷付くよ?ガラスのハートにヒビが入っちゃったよ?どうしてくれるんですかァちゃーん?」

「知らない」


そこまで言って、あぁやっぱりきつく言い過ぎたかなとかこれで嫌われたらどうしようとか考えるはやっぱり子供だ。
先生がそんなことで嫌う人じゃないって、わかってるのに。 それでも不安に押しつぶされそうになる。
怖い。怖いよ。先生に嫌われるのが、別れようって言われるのが、怖い。
だけどそんなこと言ったら、先生は自惚れるでしょう?
だから、大人の女の人のフリ。平気なフリ。冷たいフリ。全部、先生の為に。
だけど、化けの皮って、すぐ剥がされちゃう。


「・・

「ッ!」


耳元で囁かれたいつもの先生よりも低くて甘い声に、背筋がゾクリとするのを感じた。
昼間の先生からは想像出来ないような、大人の男性を感じさせる声。この声に、は弱い。
これには何時までたっても慣れないけど、慣れたフリをする。
そんな声で言ったって、は動じないのよって顔をするんだ。


は冷たいねェ」

「先生にはね」


そう言っては小さく笑みを零した。
良かった、今日も先生はに騙されてくれた。 先生が好きすぎてたまらないなんて、見せないって決めてるんだから。
お腹の上で組まれた先生の腕を払って、先生の膝の上から立ち上がる。
離れる時に触れた大きな手が、当たり前なんだけど大人の男の人の手で、ドキドキしたのは内緒。 だって、は大人の女。


「また明日ね?先生」


そう言って先生の顔を覗き込むようにすると、先生はの顎を掴んで無理矢理口付けた。
無理矢理に押し入ってくる舌が生々しくて恥ずかしい。 火照る顔を触られないようにしながら、平気な様子で舌を絡め返す。
それを合図に、また先生の腕の中へと連れ戻された。 先生の顔が胸元に埋まる。


「せんせ、子供みたい」

「子供だよ?に甘えたくて仕方ねーの。良い?」


可愛く首を傾げる先生に、またドキドキした。
だけど素知らぬフリして小さく頷く。
そして先生の熱い手がそっと身体を撫でたのを合図に、ゆっくりと目を閉じた。

あとがき

禁断の銀八せんせー夢。
男は狩猟民族だから、簡単に手に入らない方が燃えるらしいと何かで読んだのでそんな感じ。
頑張って背伸びしてるのはヒロインちゃんなんだけど、本当は先生も余裕ないと良い。
そして結局それに飲まれて先生にされるがままのヒロインちゃんでした。
良い子は学校でこんなことしちゃいけません!