「あれ、何処行ったんだろ?」


今日は非番だと聞いた。
きっと縁側で昼寝でもしているに違いない、そう考えて探しに来たと言うのに、肝心の彼女は見つからない。




春眠不覚暁 - 山崎退ver -





何処かへ出掛けてしまったんだろうか?ふと淋しさが募る。
約束していた訳ではないのだから、こんな感情はお門違いだ。

縁側から部屋の中を見渡すと、畳に柔らかそうな長い茶の髪が流れているのが見えた。


――ああ、やはり此処にいた。


ほっとして部屋に入ろうとした瞬間、男のものであろう手と共に聞き覚えのある声が彼女に降った。


・・」


恋敵と呼ぶにはこちらが不利すぎる程の人物が、そこにいた。
何故なら、彼女の視線の先にはいつもその男がいたから。

その男は、そっと彼女の髪を撫でていた。
それを見た瞬間、恋敵と言う言葉を用いることすら出来ない相手なのだと気付いた。
慈しむようなその手の動きが、全てを物語っていた。

思わず笑みが零れて、何だ、笑える余裕があるのか、と心中で呟いた。
動いてくれない足を押さえて、俺は笑みを浮かべたまま俯いた。
ああ、早く此処を去らなければ。

に。






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