女は泣いていた。一筋の涙を流して、小刻みに震えて。 血塗れの着物は太腿まで肌蹴ているのに、それを気にする素振りも見せない。 座り込んで地についた手は、ただ何かに耐えるように爪を立てていた。 爪に砂が入り込んで、黒く変色していく。 死体の山から目を背けるように座り込んで顔を俯かせていた女に、俺は思わず話しかけた。


「ここで何してる」

、は・・」


そこまで言うとふるふると首を振って、また顔を俯かせた。 敵の割りには殺気の欠片も見えない。むしろ女から垣間見えるのは恐怖心のみか。 あの用心深い小十郎でさえ、傍らで困惑の表情を見せている。


「お前、名前は」

・・・」


恐る恐る此方を見る女に、俺は手を差し伸べた。 こんな怯えた様子の女を死体だらけの戦場に一人捨て置く趣味は無い。 面倒ではあるが、連れ帰って世話してやるのがいずれこの日の本を統べる俺の役目だろう。


「俺は政宗だ」

「ま、さむね・・?」

「そうだ、


不安げに此方を見遣る瞳が、少し和らいだ。 俺の名前を聞いても何の反応も見せない辺り、奥州の人間ではないらしいことが伺える。 恐々と俺の手を掴んだは、此方を見上げてぎこちなく笑った。


「帰るぜ、小十郎」

「政宗様、この女を如何するおつもりで?」

「何、たまには慈善活動でもしてやろうかと思ってな」

「しかし、どこの者かもわからないのでしょう?」


困惑を見せる小十郎の言葉に、俺はふと笑って見せた。 この女には俺は殺せない、そんな妙な自信があった。 ただの勘だが。 俺の笑みを見た小十郎は渋い顔をしたが、諦めたようにを抱き上げて自分の馬に乗せた。


「ありがとう、ございます・・」

「政宗様の命だからな」


眉根を寄せたまま、小十郎はの後ろに乗る。 それを見届け、俺は奥州に戻る為にまた馬を走らせた。



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