恋とかそんな甘い想い抱いたことなくて、はその内どこかの顔も知らない貴族に貰われるのだろうと思って過ごしてきた。 それでいいと教えられてきた。なのに。


「駄目だぜ、女は愛する人と一緒になってこそ幸せになるんだ」

はそれでも十分幸せになれますよ」


困ったように返して、慶次を見遣る。 恋愛云々よりも良い貴族に嫁ぐべきだと教えられてきたにとっては、慶次の言葉は理解し難いものであった。


「それは、お前が恋をしたことないからさ。恋はいいもんだよ、人を強く・・とても強くする」

「・・慶次は、今恋をしているの?」


そう問うと、慶次は少しだけ視線を逸らして、まぁな、と言った。 何だか変な反応だと思ったが、深く追求はしないでおく。 前田家とは昔から親交が深かったから、小さな頃からよく知っていたのだが、成長するにつれ会うことが少なくなっていった。 それ故、最近になってよく顔を出してくれるようになった慶次にも少し遠慮が入ってしまう。


「恋は、楽しい?」

「勿論!その気になったか?」


ぱぁ、と花が咲いたように顔を輝かせた慶次に、少し驚いた。 慶次はもしかして、いつ顔も知らない相手に嫁いでも可笑しくないを心配してくれているのかも知れない。


「えぇ、ありがとう慶次。・・でもお相手がいないと話になりませんね」

「それなら俺に任せな!」

「まぁ、それでは駄目よ」


慶次に任せるというのなら、今までと何も変わらない。 ただ流れに身を任せているだけの、今のと。


、外に出てみます。たくさんの殿方とお会いすれば、きっと恋も出来ることでしょう」

「げ、待てって!それはちょっと・・」

「まぁ、恋をしろと言ったのは慶次じゃありませんか」

「いや、そうなんだけどさ・・」


何だか慌ててを止めようとする慶次に返しつつ、玄関へと向かう。 慶次が後ろからついてくるのがわかって、今までほとんど出たことのない家の外に対する恐怖心が少し薄れた。 玄関先を見渡して一歩踏み出して、はやっと前を見据える。

さぁ、恋を致しましょう!


(あれから慶次はずっとついてきてくれます。よっぽどが心配なのでしょうか)

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