ああ、神様
どこぞのバカップルみたいに浜辺でイチャイチャしたい、なんてもう絶対思いません
だから助けて!


「は、ちょっ、も・・お願いだから止まってぇぇぇ!」

「あぁっ!?ならお前が止まれ!」


後ろに向かって叫んだら、叫び返された。 限界を訴える足と戦いつつ、気を抜くことはなく走る。 ああ、なんかもう泣きそう。


「もうっ何なんですか!?貴方誰なの!?」

「何ぃ!?俺を知らねぇなんて何処の田舎モンだ、アァ!?」


あっ、なんか怒らせた!? 男の右目がむっとしたように細められ、走るスピードが上がった。 ぐんぐんと背後に迫ってくる男に焦って、躓く。 後ろを見ながら走っていれば当然なのだが、にそんなことまで考える余裕はなかった。 息を切らせた男ががっしりと腕を掴んできて、は最悪の事態を想定して喚く。


「いやあああ殺さないでっ!誰かあああ!」

「てめっ、ふざけんなよ!」


不機嫌そうに怒鳴る男に、は肩を震わせた。 それを見て、しまった、と空いている左手で口元を押さえる男。 怒鳴ってしまったことを、後悔している? 罰が悪そうにそっと腕から手を離した男を、今度は冷静に見上げた。 日の光に透けて綺麗な銀色の髪、左目に眼帯。 一見粗雑に見える、けれどこの人は悪い人には見えなくて。 もしかしては、殺されなくて済むのだろうか。 勇気を出してそう問うたら、男は酷く心外だと言いたげな表情で溜め息を吐いた。


「いくら俺が鬼って言われてようと、それはねぇだろーがよ」

「鬼!?」

「鬼が島に鬼てぇのはこの俺、長曾我部元親のことよ。お前だって聞いたことくらいあんだろ?」

「・・・・は、ぃ?」


聞いたことは、ある。 どこだかは忘れてしまったけれど、確かに聞いた。 長曾我部、長曾我部・・。 考え込んでいる間に再度腕を掴まれ、座り込んだ体制から立たされた。


「お前は?何処のもんだ?」

「何処・・ええと・・」


そういえば此処は何処だろう。 急に身体が浮いた感じがして、数mくらい上から落ちたような感覚の後、この砂浜にいた。 この人の上に落ちなかったら、今頃怪我してただろう。 その点では、感謝してる。


「んだ?もしかしてわかんねぇのか?名前は?」

「な、名前はです、けど」

。迷子か?」

「かも、知れません・・」


どうやって来たのかもわからないようでは、迷子と変わりない。 途方に暮れて肩を落とすを見て、長曾我部さんは慰めるように頭を撫でた。


「なぁ、その・・とりあえず俺の城に来い。べ、別に何かしよーってんじゃねぇぜ!?」


途端に顔を真っ赤にする長曾我部さんに、思わず笑みが零れる。 じゃあお言葉に甘えて、そう返したら右手を取られた。 ゆったりとの歩幅に合わせて、でも身長も足の長さも違いすぎる彼に結局引っ張られるような形で、は長曾我部さんのお宅にお邪魔することとなった。

このとき、ちゃんと"城"という言葉を聞き逃してなければ、もうちょっと正しい状況把握が出来たかも知れないのだが、残念ながらの頭には大きな安堵感だけが居座っていた。



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