「アニキィィ!ぐあっ!」


情けなく泣き叫ぶ男共を斬る。 男共はアニキと呼ばれた亡骸の上に伏せるようにして死んだ。 それを見遣り、先ほどその男と交わした会話を思い出す。


──・・一度だって寂しいと思ったことはないのか?


瞬間、あの男の憐れむような瞳が脳裏を掠めた。 感情を揺るがされた訳では無い。 あの男にはそれが悲しいことであり、自分にはそうでなかっただけのこと。 あの瞳を見たからと言って、何も感じることなど無い。


「・・下らぬ」


事切れた相手に対して、これほど思案を巡らせたこと自体が下らないことだ。 もう相手は死んだ。我が、この手で葬ったのだ。 その死を嘆く見っとも無い輩も、全て。


「元親様!」


先ほどの男共とは全く違った、鈴が鳴るような高い声に、ついと其方を見遣る。 そこには、男──長曾我部元親に駆け寄る女の姿があった。


「無駄だ。その男はもう事切れている」

「!お前がっ・・」


我を見遣り、全てを理解したらしい女は此方に向かって飛び掛ってくる。 我が構えると同時に、何処からか飛んできた、奴の部下であろう男たちが止める。


「落ち着いてくだせぇ、アネキ!」

「アネキじゃ無理ッス!」

「離してっ!コイツが元親様を!」


やはり。 あの男の正妻らしい女は、部下の必死の制止にも関わらず懐から出した短剣を振り回して暴れている。 涙をボロボロを零して、髪を振り乱して。 無様だ。


「うっ・・ひっく、も、とちか・・さまぁっ」


部下に抱えられたまま崩れ落ちる女を見遣り、眉根を寄せる。 無様だ。なのに、何故。 この女の涙を美しいと思った。 その思いに惑わされるようにふいに口をついて出たのは、あの男が最後に小さく呼んだ名前だった。


「良き、戦であった。──


頬に一滴、水滴が伝った。



Rain
(まるで、空さえもが奴の死を嘆いているかのように)

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