目の前が真っ白で眩しいような感覚に、私は眉を潜めた。 薄く目を開けると、白い帯がカーテンを通り越してこちらに伸びているのが視界に入る。


「ん、?あー・・」


遮光カーテンをひくのを忘れた昨夜の自分を恨めしく思いつつ、顔にかかる光を遮ろうと布団に潜る。


───暖か・・


自分の熱が篭る布団の中に潜って身体を丸めようと膝を曲げると、何かが膝に当たった。 ぼんやりとした視界の端で、何かが蠢く。 低い低い唸り声が聞こえて、漸く何か自分とは別の生き物がいることに気付いた。 未だ夢から抜けきらない頭で薄らと開いた視線を泳がせる。 暗い暗い布団の中に、キラリと揺れる小さな・・金属・・?


「・・・え。え、なに、えぇ・・?」

「うっせ・・」


まだ夢の中から覚めていないのだろうか、見覚えのある金属を見つけた私は寝惚けた声を出す。 すると何かが伸びてきて、黙れとでも言うように何かに顔を押し付けられた。 鼻先に当たる何かはまるで人肌のように暖かく、緩やかな上下を繰り返している。 未だぼんやりとした思考の中で、漸くひとつの答えに行き着いた私は、眠気に混ざって起こる焦りに声を上げた。


「え、なん、ちょ・・はああああ?」


意味不明な言葉が口から漏れても気にしない。 導き出したその答えが事実ならばそんなことは気にしていられない。 まさかまさかと否定を続ける頭を叱咤して、勢いよく起き上がった。 布団が捲れて、白い帯が私のベッドの上を映し出す。 急に起き上がったせいでぐるぐるする頭を抱える私と、ベッドに横たわったまま不機嫌そうに目を細めるバルフレアを。


「うるせぇ」

「え、いや、あんた・・何して・・」

「・・・。覚えてないのか?」


不機嫌そうに潜めていた眉をすこし緩めて、バルフレアは笑った。 私何かしたの、と口をついて出てきた言葉に少し後悔した。 だが、私はいつも通りのワンピース、バルフレアはいつもよりはラフなシャツにパンツ姿。 どちらの格好を見ても、疚しいことをした覚えも形跡も無い。 なのに、起き上がったバルフレアは嫌らしく口元を歪めて顔を近づけてきた。


「昨日はあんなに俺が好きだって言ってたのになぁ?」

「・・・、え!?」


バルフレアの爆弾発言に一瞬真っ白になった思考を無理矢理引き戻して返事を返す。 間近に迫る端整な顔を見つめて、眉根を寄せた。


「う、嘘!」

「何なら他の奴らに聞いてみるか?」

「!?」


何故か自信満々なバルフレアに流石の私も自信を失っていく。 言ってしまったのだろうか。 本当に、彼に。この、想いを。 だとしたら、バルフレアは何と返事したのだろう。


「・・そ、れで?」

「あ?」

「・・その・・・バルフレア・・は?」


段々小さくなっていく言葉に、バルフレアはきょとんとこっちを見下ろす。 もう告白はしたはずなのに、今更になって頬に熱が集中する。 バルフレアの返事を求めている時点で、これだって立派な告白なのだ。


「お前がちゃんと言ったら、言ってやるよ」

「なっ!やだよ!」

「交渉決裂、だな」

「な!も・・ズルイ・・」


くつくつと笑って私の慌てた顔を楽しむかのように見ると、頬を一撫でするバルフレア。 伝わる体温が低く思えるのは、私の顔がそれほどに熱を持っている証拠なんだろう。 きっと私の顔は外から入り込む光に照らされて、真っ赤なのが明白だ。 顔を見られたくなくて俯いたままでいると、バルフレアの手によって上に向かせられた。 そのまま、早く言えと急かされる。 観念して口を開きかけた、その時。


「起きろ、!今日は早く出るから早起きしろって言・・」


大きな音を立ててノックもせずに扉が開く。 目を丸くしてそっちを見ていると、頭上から舌打ちが聞こえた。


「ヴァン・・お前な・・」

「!?バルフレア、昨日から帰ってこないと思ったら何して・・!」


ヴァンはきょとんとしてバルフレアと私を交互に見る。 溜め息を吐いたバルフレアは、ヴァンにすぐ行くと伝えて先に部屋から出した。 助かった、とほっとしたのもつかの間、ヴァンが階段を下りたのを見計らってバルフレアはベッドに近づいてきた。 そっと私の両側に手をついて、座り込む私を間近で見下ろす。 もう、この人はどうしてこう顔を近づけるのが好きなんだろう。 半ば自棄になった私は、赤い顔を隠すことなく整った顔を睨むように見た。


「何、よ・・」

「さっきの続きだ」


言って、重なるのは手、身体、そして──唇。 ベッドに押さえつけられるように手首を押さえられ、身体の上に乗り上げたバルフレアを睨む。 が、見えるのは長い睫毛と筋の通った鼻、綺麗に整った眉だけ。 腕や足をバタつかせた必死の抵抗も、只の戯れにしか映っていないらしい。


「は、っ・・」

「いい眺めだな、


視界が歪んでぼやけ出した頃に漸く唇は離された。 酸素を求めるように呼吸を繰り返す私を余所に、バルフレアは暴れて肌蹴た私の格好を見てまた口元を歪めた。


「今夜は俺の部屋に来いよ」

「は・・な、んでそうなる・・」

「今すぐ襲われたいか?」


嫌だ、と呟くと、バルフレアはやっと私の上から退けた。 私の背に手を置いて身体を起こし、ベッドに座らせる。 髪を整えるように頭を撫でられて頭上を見ると、バルフレアが満足そうに笑った。



(嫌いだ。いつだって強引で勝手で、乱暴に私の心を奪っていくバルフレアなんて)

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