麗しや、貴方様
月の光に照らされて
今日もを蝕むのです


「来ましたか、

「・・はい」


そっと微笑んだ光秀様は、月の光の下妖しい美しさを放つ。 の全てを狂わせる。 まるで妖しの術にでもかかったかのようにふらふらと手を伸ばして、縁側に腰掛ける光秀様の頬に軽く触れた。 途端に引き寄せられる、の小さな身体。


「あ・・」

「ククッ・・いい反応ですね」


髪で隠れた首筋を露わにされ、生暖かいものが這う感覚。 ゾクリと腰から背筋を伝う甘い痺れ。 毎夜のことでも、慣れる訳がなかった。

いつからだったか、光秀様と夜毎こうして唇を重ねるようになったのは。 初めは偶然月を見つめる光秀様を見つけて、言葉を交わすだけだった。 それがいつしか、求められた瞬間からの心は虜となってしまった。

それでも、光秀様はいつも接吻以上のことはしようとはしない。


「光、ひ・・」

「黙って・・」


そう言って、光秀様は軽い接吻をくれる。 何度も重なっては離れるその行為に酔いしれるのも、毎夜のことだった。 が唯一幸せを感じる瞬間だから。 真っ直ぐにを見つめる瞳も、さらりと流れる髪も、透き通るような白い肌も、全て全て。 今だけはのものだから。

ぎゅっと瞼を閉じたら、身体に回る腕の力が一層強くなったのが解った。 何か違和感を感じ、様子を伺う為に身体を離そうとしたの身体は、いとも容易く床に転がる。


「・・光秀、様?」

・・・」


初めて聞く、苦しそうな声。 初めて見る、縋るような瞳。 唇がつきそうなくらい近くで、は光秀様の吐息を受ける。 その吐息がを尚の事酔わせるのだと、知っておられるのか。


・・・私を、愛してくれますか?」

「え・・?」


見事なまでの完璧な美を称えたその顔は、思わぬ言葉を口にした。 その言葉に、の思考は止まる。

愛してはいけない、そう思っていた。 光秀様はを愛してくれないと思っていたから。 愛しても辛いだけだと思っていたから。


「み、光秀様・・?」

「私は貴女を愛していますよ、


愛しさが溢れる、というのはこういうことだろうか。 光秀様の、を呼ぶ声が甘い。 妖しの術のように、はうっとりと頷いた。 光秀様で満たされ、溢れていく心。


「愛しております、光秀様・・」


そうして、は光秀様の手によって、変身してゆく。 まるで殿の寵愛を受けた姫の如く、幸福な蜜を滴らせるのみ。



幸福の蜜林檎
(貴方の手で、甘いに)

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