溶けてしまえば良いと思った。 だけど、行かないで欲しいと願った。 「何、してるのよ」 「・・・よォ、」 普段は賑やかな屯所を、静寂が支配する丑の刻。見事な満月が雲間から顔を覗かせ、月光がたちふたりだけを照らす。 女物の着物を纏い、片目に包帯をした男は、こちらを振り向くと美しくも歪んだ笑みを見せた。 「・・何故此処にいるの、高杉晋助」 「晋助で良いと言ったはずだぜ?」 闇に溶けるような漆黒の髪、深い瞳。月下の彼は何時にも増して儚く美しい。 不覚にも見惚れてしまう自分を叱咤しつつ、また言葉を紡ぐ。 「勘違いしないで、と貴方は敵同士なのよ」 「フン、なら戦るか?」 口端を歪め、さも馬鹿にしたように言い放つ。 そう、こいつは全て知っていてそんなことを言うヤツなのだ。 「気分が乗らないわ。こんな綺麗な月の夜に血を見るなんてね」 無粋だとでもいうようにため息を吐き、誤魔化した。 例え彼が知っていようとも、死んでも口には出さない。そう決めたのだ。 「俺はてめェの血なら何時でも見たいぜ?」 「遠慮しと・・ッ!?」 彼が近づいてきていることに気付かなかったの台詞は、途切れた。奪ったのは勿論彼で。 知らぬ間に入り込んだ彼の舌が、を翻弄していく。 「ッ痛!」 「ククッ」 ガリ、という音と共に、痛みと血の味が口内に広がる。 彼に唇を切られた、そう気付くのに時間はかからなかった。 彼は力の抜けたを強く抱きしめ、喉を鳴らすように低く笑う。 「またな、」 そう言ってに背を向ける彼。 抱きしめられた時に感じた温もりが消えていく。 闇に、溶けていく。 「・・晋助!」 は咄嗟に、名を呼んでいた。 彼を、闇から呼び戻すように。 |
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