信じたくはなかった。 夢であればいいと何度も思った。 ・・それでも、今この現実を受け止める勇気もなかった。 「あれだな、これはきっと幻だ」 「おいこら、現実から目を背けるな」 俺の言葉に返事をした女を、信じられない思いで見つめる。 目の前の女は確かにで、真っ直ぐな瞳も綺麗な茶の髪もあの時のままだ。 「夢にしてはリアルだなァ、オイ」 「だから現実だっつの、糖分の取り過ぎで夢と現実の区別もつかなくなったの?」 相変わらずね、銀時。そう言って笑うに、俺は情けなくも震える声で問い掛けた。 「・・・お前、なんで」 「死んだと思った?馬鹿ね」 彼女は、ふ、と笑みを浮かべて此方を見る。 「天人なんかにやられたりしないわよ。の実力、知ってるでしょう?」 「馬鹿、おま・・俺がどんだけ」 「心配した?」 「したに決まってんだろーが・・」 近づいてきたを強く抱きしめた。 情けない、俺の唇は震えて語尾は消え入りそうだった。 ずっと探してた、でも、戦争の後の焼け野原にはのカケラすら見つけられなくて。 まるで、俺の隣にいたこと自体が夢のように、彼女はその存在を消した。 「どこいってたんだよ」 「ごめんね、一人にして」 「ッ!?」 目の前は既に霞んで何も見えなくて。 何か鈍い痛みだけが背中を走って、俺は抱きしめたの顔を覗き込んだ。 その顔はやはり綺麗な笑みを湛えていて、俺が愛したのまま。 それなのに、その愛しい唇は、残酷な言葉しか紡がない。 「もう、終わりだよ・・銀時」 「ッ?」 「ごめんね・・。死んで?」 の淡々とした声に、そろり、震える手を漸くの頬にかけて、俺は精一杯唇を押し付けた。 最後の接吻は、鉄の味と、何故かしょっぱい味がした。 |
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